アル中病棟 吾妻ひでお

吾妻ひでおさんは大好きな漫画家です。
70年代の軽快なギャグ漫画においては、小粋なせりふ回しに、動きのある曲線の胸の透く様なカット、
どこをとってもスマートで暑苦しさが無く、お若い時の突出したセンスは私にとって唯一無二でした。
ＳＦや不条理、美少女漫画と言われていなかった頃の、この時期のものが好きです。

そんな吾妻先生が失踪したりアル中になっていたのを知ったのは、前作の失踪日記を読んでからです。
ずいぶんと前に震えた線の作画を見た時、お体を心配に思ったのですが、アル中に蝕まれていた最中のお辛い時だったのだと思い当たりました。
そして、先生のアル中病棟を読んで、お酒の恐ろしさ、それによって心身ともに破壊されていく恐怖を知りました。
コミカルな中にも壮絶な惨状、リアルが描かれており、治療のプログラムや流れ、断酒会など、アル中の人には実際お目に掛かった事はありませんが、疑似体験をしているかの様に読めました。

アル中は海王星が悪く働いた時の現象です。
海王星は、自我を大きな集合体の中に沈めさせようとします。
無意識の自我は個人対個人だけでは満足せず、より大きな無意識の集合体の中へ一体化させようとするのです。
そのため、例え目の前にいる人に愛され、尽くされていようとも、得体の知れない不安や孤独を感じてしまう事があるのです。
それは土星の様にすぐに原因が分かったり、目に見える問題ではありません。
悲しみの感受性が強く、普通の人には理解されない類の、その人にしか分からない寂しさ、悲しみを作り出してしまうのです。
世界中が自分の味方だと実感しない限り、海王星の人の孤独は癒えないのではないかと思う程です。

アルコールは海王星の象意の一つですが、お酒からは他人と個人の区別が付かなくなる合体感、万能感、陶酔感が生まれます。
現実の不安や孤独、空虚感は、飲酒した時の忘我状態、多幸感によって一時癒されます。
それが忘れられず疾患者は繰り返す様になります。
現実に直面すると自己崩壊に繋がりかねない人は、知らないうちに飲酒による自己防衛しているとも言えるのでしょう。
しかしアルコールに頼るあまり、ますます現実に立ち向かう力を失わせ、引き返す事も出来なくなっていく、死に至る恐ろしい病なのです。

意識と無意識の境界が曖昧になるうちに身を滅ぼす、まるで真綿に首を絞められる様に、見えないものに徐々に徐々に取り囲まれ、そこから逃れられなくなって命を奪われる。
海王星からはそんな恐怖を感じます。
実に怖い星、性質が悪いといっても良いと思います。
また、その家族にある人は被害者となり、同じくお酒の犠牲になって地獄の苦しみを味わいます。
共依存にある家族は疾患者をコントロールしようとせず、自分のために生きるべきなのです。

一方で、芸術的な才能がある人は、飲酒による陶酔が好きなのと同時に、素晴らしい感受性とインスピレーションをお持ちになっている事が多いと思います。
先生の海王星は水星と90度、太陽木星合と120度です。

一度アル中になったら、2度と元には戻れません。脳の委縮も始まり人格も変わって行きます。
作中にも有りましたが、ぬか漬けのキュウリが元の生キュウリに戻れないのと同じです。
生涯、健全にお酒をたしなむ事はできず、飲み始めれば再び中毒症状が出てしまうのです。
お酒の魔力に勝って、断酒を続けることは本当に大変らしいです。
退院した5人に一人しか断酒を続けられないとありましたが、これが現実なのです。

先生は水瓶座に金星、木星、太陽、天秤座に海王星、火星、（月も？）を持ってトライン。
軽快なテンポや表現力は、この辺の配置に依るのでしょう。
本の中でもご自分の事を、まるで他人の事の様に俯瞰的に、あっけらかんと書かれています。
太陽木星合は海王星の調停は有りますが、獅子座冥王星とはタイトに180度。
軽いタッチからは伺い知れない、創作に当たっては命を削る位に徹底的に打ち込む漫画家さんなのでしょう。
ギャグ漫画を描くと言う事は、ご自分が例え辛い状況にあっても面白い事を発想し続けなければならないので、シリアスな漫画を描く方がよっぽど楽なのだと言います。
90年前後ついに描くのを放棄され、失踪したのちホームレスや配管工となり、大きく生き方を変えた時は、Ｔ冥王星が蠍座でＴ字を作っていました。
幼少の頃、ご両親の離婚によって寂しい思いをされたとの事も、さらりと少しだけ書かれていましたが、月は天王星と90度のみ。
この時の体験が根にあって、お酒に溺れる様になったともありましたが、陰鬱さを感じさせない漫画のタッチは吾妻先生の独特のものです。
2005年、失踪日記が多くの人達から評価され、様々な賞を授与された時、海王星同士はトライン。
世の中の人達に共感された事によって、これまでの孤独や苦しみが報われ、浄化された時期であったと思います。

先生は私にとって大好きな漫画家のお一人です。
どうか、これからもお体を大切に長生きされますよう、いつまでもファンの一人として熱く願っています。

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コメント 8

ままみさん、こんにちは！
吾妻先生の失踪日記、私も読みました。

アルコール中毒の現実にぞっとしました。
海王星の象意のものは何でも、
たしなむ程度なら、むしろ全くないより
健全に働きます。免疫にもなります。
しかし度が過ぎたら、中毒となってしまったら
これほど怖ろしいものはありません。
放蕩は、若いうちに経験しておけば
大人になったときにむしろプラスに働くことが多いです。
しかし放蕩が行き過ぎたら、人生をやり直すことさえ
難しくなります。
吾妻先生の失踪日記は多くの方の免疫になっていると
感じました。本当に素晴らしい作家だと思います。
吾妻先生は風サインが強い方なのですね。
壮絶な内容なのに、軽やかで淡々と表現されているのは
そういうことか、と納得しました。
ちょうど海王星について思いめぐらせていたところだったので
とってもタイムリーな記事で驚きました。
ありがとうございました！





by リマーナすず (2014-07-09 09:57) 

すずさん、コメントをありがとうございます！

私も最近嫌と言う程続いている嘘や不正のニュースで、海王星の事が頭を過っていたのです。
海王星は、心が浄化される美しいものを見せてくれるのと同じように、おぞましいものも見せつけてくるのだと感じていました。
掴みどころの無いこの星の事を考えようとすると、何だか混乱が増してきます。

すずさんも、失踪日記読まれたのですね。
私も2冊合わせて読みましたが、吾妻先生が本を世に出されたおかげで、きっと数え切れない人達がアル中の恐ろしさを知り、堕ちて行くのを留まったのではないかと思いました。
自ら地獄を体験し、人生やり直すためのプロセスを描かれた貴重な体験本、本当に素晴らしいですね。
この本によって多くの人が救われていると思います。

公転周期が人の一生を超える海王星の性質は、とても個人の力でコントロールできるものではなく、資質などに影響を受けた人は、何かと限界を超えたがる傾向が強い様です。
そういう人は際限のない欲求を満たすため、お酒もある程度の所で止める事が出来にくいのかも知れません。
何かしらの依存症になり易いと思います。

断酒を続けるための断酒会では、各々の辛い体験を語り合い共有し、受け入れられる事で救われたり、今日も一日、断酒できた事への感謝を神に捧げたり、何か教会的な性質が強い所などは、海王星で壊されたものは、海王星で修復する他は無いのかとも思いました。
海王星は絶望から人間を救い上げ、何事も赦される神の愛、慈愛の星でもありますよね。

by ままみ (2014-07-09 18:17) 

ままみさま

お久しぶりです。
恥ずかしながら、吾妻先生の作品は読んだことはありません。
海王星はアルコールを意味するのですね。
私も海王星が強い方で、昨年春頃毎夜アルコールを摂取し、体調を崩しました。
現在は精神安定剤に依存してしまっています。
確か海王星は薬も意味しているようですね。
歌手のアスカも海王アスペクト多くて、あんなことになっちゃいましたね。


最近とても辛いです。
鑑定をお願いしたいと思いながらも、色々ごちゃごちゃしてなにを占ってほしいかもわからないです。
by ゆりか (2014-07-10 03:05) 

ままみさん、お久しぶりです！
アルコール中毒とその体験記を漫画に綴られている吾妻先生のお話、海王星のお話を興味深く拝見させていただきました。
実は、ゴールデンウィークに実父が川に落ち亡くなりました。自転車で早朝散歩に出て家から遠い小さな舗装があまりされていない川で浮いているのを近くで釣りをしていた方に発見してもらいましたが、間に合いませんでした。
作家さんとアルコール中毒、そして海王星の話が父の事にオーバーラップする部分がありました。
現実に向き合うと感じてしまう無力さや繋がりの希薄さから目を背けたくて、父も藁をも掴む気持ちでお酒や宗教にすがっていたのかも知れないと思いました。

今までも少なからず、父の心の闇はわからないでもないと思ってはいたのですが、こうして改めて文章で読むと思った以上に取り返しのつかないくらい深く長く楔が打たれていて、そこを何とかするには自分をほじくりえぐらなければならないほどの痛みがともなうという幻想という恐怖があったのかも知れません。
つかの間の快楽は人生を救ってなどくれず、現実はすぐ戻って自分の居場所を奪うように思えたのかもしれません。誰かに救って欲しくても、自分が自分を助けなければ助からないのにそれが恐くて痛くて出来ない。そんな感じに思えます。

海王星の救われがたさには私も怖さを感じます。
by キョウコ (2014-07-10 10:02) 

ゆりかさん、コメントをありがとうございます！

吾妻先生は、私の様に年のいっている方やマニアな方なら別として、お若い方は存じない方が普通かも知れません＾＾；
ゆりかさんはお酒に強いのですか？
体調を崩されるほど飲むのは危険です。
医者から処方された精神安定剤を飲む方が、まだ安全だと思いますよ。
人は多かれ少なかれ何かに依存していると思いますけれど、（健全な事なら心の拠り所としてですが・・）
入り込み過ぎると怖いです。
真の自立とは、あらゆる依存を断ち切る事、ですが、これが難しいですよね。
その対象が無くなった時でも大丈夫なら、まだ引き返せます。

アスカさんのチャートを見ましたが、確かに7つもの天体が海王星と関わっているのですね。
そして吾妻先生と同じく、太陽冥王星の180度に海王星が調停しているのも印象的でした。
太冥独特の仕事に対する有無を言わさぬ使命感、縛りのきつい人生、この負担から逃れたくて海王星を逃げ場所として使い続けてしまった結果なのかも知れません。
お二人とも作品に対して徹底した拘りをお持ちだったと思うので、スランプに落ちた時期はさぞかし苦しかったでしょうし、何か痛々しいものを感じます。

ゆりかさんが今、ごちゃごちゃされているというのは、一度にいろんな事を抱え過ぎているからでないでしょうか。
人は限られたエネルギーを使って生きるしかないので、あれこれ考え過ぎて拡散されたら、さらに疲弊が増すだけです。
人生は取捨選択の連続、何かを得れば何かを捨てるしかなく、それは潔く受け入れ、そして手放す方が良いです。
せめて自分にとっての最優先事項、それだけを大切に守り続ける事をされたら楽になるのではないでしょうか。

by ままみ (2014-07-10 18:46) 

キョウコさん、お久しぶりです。

先々月にお父様を亡くされていたとは、それも予想のできない突然の事とは、さぞかしお辛く、お力を落とされた事でしょう。
心中お察しし、そして心からお悔やみ申し上げます。

お父様は生前、お酒を嗜み、信心深く神仏を敬う方だったのですね。
そして現実の居場所を探し求めていらっしゃったと・・・

海王星は、軌道が楕円を描く冥王星より、太陽系の果てを回っている事があります。
冥王星は冥土の国を司るので、太陽系の一番辺鄙で寂しい所を回るのは理解できますが、海王星も死の星と同じくらい遠く外れた場所にあるのです。
海王星は個人ではなく集合体の、それも意識のできない無意識を取り扱うので、対象とするものはとてつもなく大きくて果てが無く、限度も無いので、そこに個人の意識が放り出されたとすれば、通常ではない感覚の孤独感が生まれてしまうのは想像できます。
例えると、広い宇宙にたった一人浮いている様な、遠くに星が見えて自分以外の人が皆そこに移住してしまっている様な、そんな風に思えてしまうのです。
土星も孤独の星ですが、隣の家には人が住んでいるのに意地で顔を合わせない、このぐらい違うんじゃないかと思う程です。

さらに海王星から見れば、人は個人として扱われず集合体の一部としてみなされます。
知らないうちに意識を奪われ、何かに溶け込み乗っ取られてしまう、自分が自分でなくなる様な感覚も起きると思います。
自分を保てず、なんてちっぽけなんだと無力感、空虚感を感じてしまう、
それが行き過ぎると、生きている意味さえ見失ってしまうのかも知れません。

原因の分かる問題は自力で何とかする事が出来ても、海王星の起こす問題は見えづらい事が多いため、敵は煙のようでもあり、そんな相手では気力も失ってしまうでしょう。
自分も飲み込まれて煙の様に生きる、一部と化してしまう方が良いのかも知れません。
抗ったり向き合って解決する類の問題とは、また違うのかも知れないと思いました。

本当に怖い星ですが、簡単に時や場所を超えてしまう様な星なので逆手にとれば、境界を無くした色々な人との繋がりの可能性もある星だと思います。
果てしない孤独を感じさせながらも、見えない所で人と人を繋ぐ希望の星でもあるのです。


by ままみ (2014-07-10 19:54) 

吾妻ひでおさん、気になる作家さんの一人です。
アルコール依存の事情は、笑えたり、笑えなかったり。。。＾＾；
面白い漫画なんで好きです。
by マイン (2014-08-08 09:14) 

マインさん、コメントをありがとうございます！

アルコール依存怖いですよね。
そこに至るまでの経緯は人それぞれと思いますが、吾妻さんは最初お酒が弱かったと言います。
飲めない人でも可能性はあると言う事です。

懐古趣味でもあるのですが、吾妻さんの徹底したコメディのファンなのです。
二日酔いダンディー
気まぐれ悟空
エイトビート
オリンポスのポロン
ふたりと５人、などなど・・・
私にとってはお宝です。

by ままみ (2014-08-08 16:40)