「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
ボッティチェリ 1483年

絵のテーマは、ボッカチオの騎士、ナスタジオ・デリ・オネスティの物語。
ボッティチェリの画いたこの4枚の連作には、紙芝居の様に物語があるのですが、どういったストーリーか想像がつきますか??
何やら裸の女性が騎士に追いかけまわされ殺されているという、とても残酷な絵ですが、一応婚礼祝いの絵でテーマは愛という事なのです。

(一枚目)
恋人に結婚を断られたナスタジオ(左)がしょんぼり林の中を歩いていると、きらびやかな衣服の馬にまたがった騎士が登場する。
彼は犬をひきつれ、剣をもった右手を高々とあげながら、美しくかよわそうな若い裸の女性を追っている。
彼女は今にも白い犬に足をかまれ、倒れる寸前だ。ナスタジオは必死に棒で犬を追い払おうとする。

(2枚目)
ついに女性は倒れ、その彼女の背中を騎士が刀で切り裂き、取り出した内臓を犬たちに与えている。
あまりの恐ろしさにナスタジオはたじろいでしまう。
勇気を出し騎士に、どうしてそんな酷い事をするのか聞いてみると、騎士はかつてこの女性に結婚を断られ自殺し、ともにあの世の人となってからも恨みは消えず、こうして追い回して殺さずにはいられないというのである。
彼女の方もその心の冷たさによって地獄の劫罰を受け、未来永劫彼に殺され続けているというのだ。
遠景でも、しつこく騎士が女性を追っているが、殺され犬に内臓を食べられると、彼女はまた無傷で逃げ始めるという。

(3枚目)
ナスタジオが恋する女性が、一族と野外で宴会しているところへ、騎士に追われた裸の女性と彼女に噛み付く犬が乱入してきて、人々は恐怖に慄く。
ナスタジオとまっすぐ目を合わせている白い服の女性がナスタジオの恋人で、ナスタジオは騎士から聞いた今までの話を説明する。
「ぼくをふると、あなたもこうなりますよ!」と。

(4枚目)
この脅しの様な話が効いて恋人は結婚に同意し、ナスタジオはめでたく彼女を手に入れる結婚披露宴のシーン。左側にプッチ家、真ん中にメディチ家、右側に新しくできたプッチ・ビニ家の紋章が描かれている。


この絵はフィレンツェの富豪プッチが、息子の婚礼記念に、ボッティチェリに依頼したのだそうです。
愛に対して心が冷たい人間への戒めとして、大変意味があったのでしょうね。
ストーリーを知るとなるほど、と思えなくもないですが、これを「愛の物語」とし室内に飾り鑑賞していたという感覚は、日本人からすれば考えられないですよね。
しかしロミオとジュリエットといい中世イタリアの人々にとって、恋とは命がけでするものであったという事には間違いなかったのかも知れません。